競馬の血統を調べる際、ミスプロ系という言葉に直面することがあると思います。
ミスプロとは略語で、正式には、ミスタープロスペクター系のことを意味します。
ミスプロ系は現在の日本競馬においても、その影響力をもっているのですが、実際にミスプロ系がどのような意味を持ち、どのような特徴を持っているのか存じない人も多いと思います。
ここでは、ミスプロ系とはどういったものであるのか、そしてミスプロ系の馬にどのような馬がいるかをミスプロ系の系統ごとに分けて紹介していきます。
ミスプロ系の始祖であるミスタープロスペクターはアメリカの競走馬です。
ミスタープロスペクターは直訳すると(炭鉱者)という意味になります。これは、ミスタープロスペクターの母がゴールドディガーが(金鉱採掘者)という意味で、それにちなんでミスタープロスペクターと名付けられました。
ミスタープロスペクターはダートが主流のアメリカにおいてデビューを果たしましたが、現役時代の成績は14戦7勝。重賞未勝利で、マイル以上の距離では結果を残せませんでした。現役時代の成績だけ見るととても種牡馬入りできる器ではありませんでした。
しかしながら、種牡馬入りしたミスタープロスペクターにはその生涯成績に見合わず、27頭の良質な繁殖牝馬に恵まれます。そして、初年度産駒にイッツインジエアというG1タイトルを5勝した馬を輩出しました。
その後もメトロポリタンハンデキャップを制したファピアノやアグネスデジタルの父であるクラフティプロスペクター、G1を3勝し、キングカメハメハの父に当たるキングマンボを輩出しました。
その生涯成績に反して、種牡馬として大成功を収めることとなります。
ミスタープロスペクターの母は先ほど紹介した通りゴールドディガーです。ゴールドディガーの父はアメリカ二冠を制したナシュアで、その父はイギリスの2000ギニーを制したナスルーラです。
ミスタープロスペクターの父であるレイズアネイティヴは、怪我のため2歳時しかターフで走らなかったものの、4戦4勝と輝かしい成績を持ちながら現役を引退しました。
そのレイズアネイティヴの父は22戦21勝で生涯を全うしたネイティダンサーです。
ミスタープロスペクターが現役時代の成績に反して種牡馬入りできたのは、親族が現役時代に結果を残していた名馬であったことが影響しているのです。
ミスタープロスペクターはアメリカの種牡馬で、生涯をとおして、アメリカで種牡馬生活を営んできました。
ミスタープロスペクターの素晴らしいところは産駒も種牡馬として活躍している点でしょう。そのため、今日のアメリカでは日本のサンデーサイレンス並みにアメリカ競馬に影響力をもたらしているようです。
さて、ミスタープロスペクターを父に持つサラブレッドの多くは、種牡馬として、アメリカだけではなく、欧州や日本においても、ミスタープロスペクターの血を広めています。
特に、日本において、影響力をもたらしたミスプロ系種牡馬を紹介しましょう。
フォーティナイナーはフューチュリティステークスやシャンペンステークスといったアメリカのG1を4勝した馬で、種牡馬としても、最初はアメリカで、後に日本に輸入されて活躍しました。
ミスタープロスペクターの後継者として頭角を露わにしたフォーティナイナーはフォーティナイナー系という系統を産み出すことに成功します。
日本でも知られるフォーティナイナー系の有名な競走馬は
アメリカのダートG1を制したスウェプトオーヴァーボード
ジャパンカップ・宝塚記念・ドバイデューティフリーを制したアドマイヤムーン
短距離ダートの重鎮であるサウスヴィグラス
アメリカでダートG2を2勝したトワイニング
ケンタッキーダービーをはじめ、アメリカG1を3勝したアイルハヴアナザー
です。
1990年のミスタープロスペクターの直系として誕生したキングマンボはフランスの競走馬です。
キングマンボの母であるミスエクはアメリカの競走馬でしたが、ヨーロッパで大活躍をし、G1タイトル10勝を片手に繁殖入りした名馬です。
ミスタープロスペクター×ミスエクの超良血馬同士の交配で産まれたキングマンボもフランスの2000ギニーやセントジェームズパレスステークスといったG1を制しています。
引退後は父のミスタープロスペクターの祖国であるアメリカに渡り、種牡馬として大活躍しました。
キングマンボの有名な産駒は
凱旋門賞にて日本馬として初めて2着に入選したエルコンドルパサー
イギリスの2000ギニーを制したキングズベスト
2004年の日本ダービーを制し、種牡馬として大活躍したキングカメハメハ
ジャパンカップを制したアルカセット
がいます。
日本のミスプロ系の馬はフォーティナイナーとキングマンボの2つの系統に分けられ、フォーティナイナーとキングマンボの血を持たない馬はまとめてミスタープロスペクター系の馬に分けられます。
ミスタープロスペクター系の馬で有名な馬はエンパイアメーカーでしょう。
その他にもマイネルラヴやアグネスデジタル、モンテロッソもミスタープロスペクター系に該当します。
キングマンボの直系として生誕したキングカメハメハはキングマンボ系の馬に該当しますが、種牡馬として日本競馬に多大なる貢献をもたらしたことから、非公式ながらもキングカメハメハ系としてカテゴリー分けする値のある馬です。
キングカメハメハは現役時代にNHKマイル→日本ダービーという変則2冠を制した馬です。
その日本ダービーもレコードタイムで勝ち、誰もが今後の日本競馬界を引率するかと思えましたが、秋の初戦に挑んだ神戸新聞杯から1か月後に屈腱炎を発症し、3歳で現役を引退してしまいました。
しかし、種牡馬としての功績は、近代競馬において語るまでもないでしょう。サンデーサイレンス系のディープインパクトと共に、種牡馬2台巨頭を築き上げたのです。
有名な産駒は挙げればキリがないのですが、
歴代最強スプリンターのロードカナロア
G1タイトルを含む、重賞5勝馬のレイデオロ
皐月賞とダービーを制した良血のドゥラメンテ
地方・中央のダートG1を10勝したホッコータルマエ
上記の馬はいずれもキングカメハメハ産駒です。
フォーティナイナー自身がアメリカのダートG1で結果を残していた馬であり、ダートを得意とする馬が割合多く見られます。
しかし、フォーティナイナーから見て孫・曾孫にあたる馬は得意舞台ががらりと変わります。
例えばスウェプトオーヴァーボート産駒であるオメガパフュームは典型的なダートホースですが、同じくスウェプトオーヴァーボートであるレッドファルクスはダートから芝に転身し、短距離G1であるスプリンターズステークスを連覇しました。
また、アドマイヤムーンはフォーティナイナーから見て孫にあたる馬ですが、ジャパンカップや宝塚記念といった典型的な芝の中距離を得意としていました。
アドマイヤムーンの産駒に当たるハクサンムーンやセイウンコウセイ、ファインニードルはいずれも芝の短距離馬で、フォーティナイナー系の中でも芝のスプリンターを多く輩出しています。
このことから、ダート全般と芝の短距離を得意とする馬が揃っているのがフォーティナイナー系の特徴といえるでしょう。
キングマンボは現役時代に芝のG1を制しているように、キングマンボ系は芝の中距離を得意とする馬が多いです。
キングマンボ系の馬はパワー・スタミナ・スピードのバランスが良く、大舞台で結果を残す馬が多数いることから、ビッグレースに強い特徴を持っています。
総合力の高さがウリですが、悪く言えば器用貧乏なところもあり、芝の中距離を除くと、他の部門で大活躍した馬はそこまでいないです。
フォーティナイナー・キングマンボに属さないミスタープロスペクター系は非常にバラエティ豊かです。
どういうわけか、芝でもダートでも好走する二刀流ホースが多数存在します。
例えばアグネスデジタルはマイルチャンピオンシップや安田記念を制したマイラーかとに思えますが、フェブラリーステークスやマイルチャンピオンシップ南部杯を制したダート馬でもあり、果ては中距離の天皇賞(秋)や洋芝の香港カップまでも制した適正の幅が広すぎる馬です。
モンテロッソはドバイワールドカップを制したダートホースのチャンピオンに思われがちですがクラシックの年には芝のキングエドワード7世カップ(G2)を制している二刀流ホースです。
マイネルラヴはスプリンターズステークスを制した馬ですが、デビュー2戦目にダートで2着に入選しており、もしダートで使い続けられていたとしても結果を残せたかもしれません。
このようにフォーティナイナーやキングマンボ以外のミスプロ系の馬は個性的な馬が多いのです。
アメリカで一大種牡馬として活躍したミスタープロスペクターは、産駒が独自の系統を形成し、世界中にミスプロの血を広めました。
日本においてもキングマンボ系に当たるキングカメハメハが、サンデーサイレンスと対を為す種牡馬として大活躍しました。
残念ながらキングカメハメハは2019年に死去してしまいましたが、キングカメハメハの血を継いだルーラーシップやロードカナロア、ドゥラメンテが現役時代に活躍し、今では種牡馬としても活躍しています。
キングマンボ系の馬はキングカメハメハがそのポストを継ぎ、現在はポストキングカメハメハとして多数のキングカメハメハ産駒が種牡馬入りしました。
ミスプロ系の血統が途切れることは当分ありません。ルーラーシップやロードカナロア、ドゥラメンテといった種牡馬がこれからの競馬界を引っ張っていくことになるでしょう。